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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)234号 判決 1998年9月25日

兵庫県三木市大村五六一番地

控訴人(一審原告)

株式会社岡田金属工業所

右代表者代表取締役

岡田保

同所

控訴人(一審原告)

ゼット販売株式会社

右代表者代表取締役

岡田保

右両名訴訟代理人弁護士

酒井信次

田中稔子

右補佐人弁理士

大西健

東京都板橋区小豆沢三丁目四番三号

被控訴人(一審被告)

株式会社タジマツール

右代表者代表取締役

田島庸助

右訴訟代理人弁護士

増岡章三

増岡研介

片山哲章

〔以下、控訴人(一審原告)株式会社岡田金属工業所を「原告岡田金属」、

同ゼット販売株式会社を「原告ゼット販売」といい、

被控訴人(一審被告)株式会社タジマツールを「被告」という。

その他の略称は、原判決のそれによる。〕

主文

一  本件控訴(ただし、減縮された後の原告らの請求に関する控訴)をいずれも棄却する(なお、原判決主文第一、二項は、当審における訴えの一部取下げにより失効した。)。

二  控訴費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  原判決中、原告ら敗訴部分を取り消す。

2  被告は、原判決別紙「被告物品目録」記載の鋸刃を製造、販売してはならない。

3  被告は、原告岡田金属に対し、金一億八〇〇三万九七九五円を、原告ゼット販売に対し、金四五〇〇万九九四九円をそれぞれ支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被告の負担とする。

5  2、3項につき、仮執行宣言

なお、原告らは、当審において、実用新案権侵害を理由として原判決別紙「被告物品目録」中第一「鋸柄」関係記載の鋸柄の製造・販売の差止め及び損害賠償を求める訴えを取り下げた。

二  被告

主文第一、二項と同旨

第二  事案の概要

一  本件は、(一) 原告岡田金属が、<1>不正競争防止法違反(周知商品表示混同惹起行為)を理由とする被告替え刃の製造・販売の差止め、<2>これを理由とする損害賠償を、(二) 原告ゼット販売が、不正競争防止法違反(前同)を理由とする損害賠償を求めた事案である(なお、前記のとおり、原告らは、当審において、実用新案権侵害を理由として被告鋸柄の製造・販売の差止め及び損害賠償を求める部分につき、訴えを取り下げた。)。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一) 当事者

原告ら及び被告は、いずれも、工具等の製造、販売を業とするものである。

(二) 原告岡田金属は、原判決別紙本件物品目録及び同別紙本件替え刃図面1ないし3記載の各鋸替え刃(以下「本件替え刃」という。)及び本件替え刃を装着した同目録記載の各商品(以下「本件商品」という。)を製造し、原告ゼット販売は、本件替え刃及び本件商品を販売している。

(三) 本件替え刃の商品形態の商品表示該当性

(1) 旧不正競争防止法一条一項一号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」の中には商品形態自体も含まれるが、本件替え刃は、以下のとおり、他の製造業者による替え刃式鋸の替え刃に比して、その形状、商品名の表示方法において著しい特徴を有しており、その商品形態自体に商品表示性が認められる。

(2) 替え刃式鋸の柄を所有している一般需要者にとって、最大の関心事は、自己の所有している柄に装着可能な鋸替え刃を選択することであり、鋸柄への装着部となる替え刃の掛止め部、背凹部、商品名の一部としての寸法表示を特徴とする商品形態をよりどころとして自己の所有する柄に装着可能な替え刃を選択しているのが実情である。

原告岡田金属は、昭和五〇年から、「背金の内側に形成した支持部に替え刃の基部側に形成した凹部(掛止め部)を掛け合わせた後、替え刃全体を上方に回動させ、背金の挾持溝で替え刃を保持させる」という独自の方式(回転着脱方式)を採用した替え刃式鋸の製造販売を開始し、これにより鋸市場において回転着脱方式の替え刃式鋸の製造者として広く認識されるようになった。

本件替え刃は、右の回転着脱方式により背金に装着できるように構成された掛止め部の形態(鋸替え刃の基部側上方位置に半径一八ミリメートルの円弧部を形成するとともに該円弧と同心上にある半径五ミリメートルの円弧部を形成することによってフック状の掛止め部を形成している。)に最大の特徴を有しており、加えて背凹部が存在すること、替え刃上に刃渡り寸法の表示を商品名の一部として赤色で大きく表示していること(特に「二六五」が意味する刃渡り二六五ミリメートルという寸法は、原告岡田金属の独自の研究開発により最適であると判明したJS規格にもない寸法であり、それ自体独自性を有する。)から、独特の商品形態を有している。

本件替え刃の独特の商品形態は、以下のとおり、鋸市場において原告らの商品の形態的特徴として広く認識されており、原告らの製造、販売にかかる鋸替え刃であることを識別する表示としての機能を有するに至っている。

(四) 周知性

(1) 販売実績

原告岡田金属は、昭和五七年七月に本件商品のうち「ゼットソー・二六五」及びその替え刃を、昭和五九年八月に「ゼットソー・八寸目」及びその替え刃を、昭和六一年六月に「ゼットソー・三〇〇」及びその替え刃を、それぞれ発売開始した。

昭和五七年七月から被告参入の前年度である昭和六三年一一月末までの本件商品及び本件替え刃の各総販売数は、それぞれ約二五七万丁、約八六七万枚であり、平成六年一一月末までの本件商品及び本件替え刃の各総販売数は、それぞれ約六四七万丁、約二九一六万枚である。

なお、昭和六三年一二月からは、原告岡田金属は、本件商品及び本件替え刃の販売を子会社の原告ゼット販売に委ねている。

(2) 市場占有率

替え刃式鋸が鋸市場の主流になった昭和六〇年ころの鋸の年間総販売数は、従来型のものも含めて六五〇万個程度と推測され、この数値をもとに本件商品及び本件替え刃の市場占有率を計算し、平成七、八年度の市場調査結果と合わせると、市場占有率の推移は次のとおりとなる。

昭和六〇年度 二〇パーセント

昭和六一年度 三五パーセント

昭和六二年度 四九パーセント

昭和六三年度 六〇パーセント

平成元年度 六五パーセント

平成二年度 六二バーセント

平成三年度 七一パーセント

平成四年度 七一パーセント

平成五年度 七四パーセント

平成六年度 六〇パーセント

平成七年度 六三パーセント

平成八年度 七八パーセント

(3) 販売対象地域

本件商品及び本件替え刃は、昭和五七年七月以降、販売代理店八三社、特約店八三社を通じて、北は北海道から南は沖縄まで全国津々浦々で販売されている。

(4) 広告、宣伝活動

原告らは、本件商品及び本件替え刃の広告、宣伝活動を以下のとおり継続的かつ大規模に行ってきた。

<1> 新聞広告費用

本件商品及び本件替え刃についての新聞広告費用は、昭和五七年四月一日から被告参入直前である平成元年三月一日までが、六九六万八〇〇〇円、平成六年一一月二〇日までが、三七二一万四五〇〇円である。

本件商品及び本件替え刃に対する社会の認識、関心度は、他の製品に比べて極めて高く、業界紙にとどまらず、広く一般の商業新聞等にも取り上げられた。

<2> ラジオ、テレビ、カタログ等の費用

本件商品及び本件替え刃のラジオ、テレビ、カタログ等の宣伝、広告費用は、昭和五七年四月一三日から平成元年五月四日までが、五三九七万四三〇〇円、平成六年一一月二日までが一億七四一一万三七五〇円である。

(5) 昭和五七年度三木市より新殖産品指定

我が国有数の金物生産地である三木市においては生産物増加、産業発展の目的で殖産品指定を行っているが、本件商品のうち「ゼットソー・二六五」は、昭和五七年度に新殖産品の指定を受け、三木市によって当時全国の約八〇〇〇店の金物店に紹介された。

右の各事実より、本件商品及び本件替え刃は、遅くとも被告が被告替え刃の製造販売を開始した平成元年中ごろまでには、その商品形態が広く取引者、一般需要者に認識されるに至り、周知性を獲得していた。

(五) 被告の替え刃の製造、販売

被告は、平成元年ころ以降、原判決別紙被告物品目録第二鋸刃関係欄記載の鋸替え刃(以下「被告替え刃」という。)を製造、販売している。

(六) 本件替え刃と被告替え刃の商品形態の同一性、類似性

(1) 掛止め部を要部とする全体の形状の比較

本件替え刃と被告替え刃とは、本件替え刃の最大の形態的特徴である掛止め部(要部)の形態には、肉眼で識別し得る程の相違点がなく、その寸法も同一である。

被告替え刃には、右上角に半径五ミリメートルの円弧が形成されているが、一般需要者が本件替え刃を識別するに当たって最大のポイントとなる掛止め部から遠く離れた位置にあるわずか半径五ミリメートルの円弧の有無は問題とならない。

(2) 背凹部の比較

被告替え刃の背凹部は、本件替え刃の背凹部と同じ深さで横巾もほぼ同じであり、一般需要者にとってはほとんど同一の形状に見える。

(3) 商品名の表示方法の比較

被告替え刃上の商品名の表示位置及びその文字の大きさ等も本件替え刃と全く同一である。

被告替え刃の三種類の商品構成は、本件替え刃と同一である。

(4) 目立て方法の同一性

原告岡田金属は、替え刃の切れ味をよくするための研究の結果、刃先の高いもの四個の後に低いもの二個を配列するという方法(四-二配列)を採用しているが、被告替え刃もその方法を採用しており、アサリ巾やナゲシの角度までもそつくり同じになっている。

以上のとおりであるから、本件替え刃と被告替え刃の商品形態は同一ないし類似のものである。

(七) 出所混同のおそれ

被告は、本件替え刃の最大の特徴的部分である掛止め部の形態は勿論、替え刃全体の形状も本件替え刃と寸分の狂いもない隷属的模倣を行ったうえ、さらに刃渡り寸法の数字を商品名に取り入れるという表示方法まで同じくし、文字全体の大きさやバランスに至るまで同じような表示形態を採用している。かかる隷属的模倣を行えば、営業主体間に商品の出所の混同を生じさせ、また、商品の供給主体間におけるライセンス契約、業務提携関係、OEM契約(相手先ブランドによる商品供給契約)があるのではないかといった誤った認識を需要者に生じさせる可能性があることは明らかである(いわゆる「広義の混同」)。

(八) 営業上の利益の侵害

被告が本件替え刃と同一ないし類似の形態の替え刃を製造、販売する行為は、本件替え刃を製造、販売している原告らの営業上の利益を侵害する。

(九) 被告の故意

(1) 被告替え刃における背凹部の存在

本件替え刃の背凹部は製造工程上の必要から生ずるものであるが、被告替え刃の背凹部は製造工程上不要なものである。現に初期の被告替え刃には背凹部は存在しなかった。ところが、いつのころからかわざわざ背凹部を作るようになったのであり、これは正しく出所の混同をねらった隷属的模倣のためのものとしか考えられない。

(2) 掛止め部の寸法について

原告岡田金属は、平成元年初夏、被告が被告替え刃の製造、販売を開始したことを知り、直ちに被告替え刃を取得して替え刃の構造等につき研究したところ、被告替え刃は手前側下方部の長さが本件替え刃に比して三ミリメートル程度長いことが判明した。そこで被告替え刃を本件背金に装着できないようにするため、従来円形であった本件背金の支持部の形状を、平成三年七月三一日以降は「まがたま」状に変更することにした。

ところが、被告は、即座に被告替え刃の手前側下方部を短くし、掛止め部の寸法を本件替え刃と全く同じ寸法にし、原告岡田金属の「まがたま」状の支持部に掛け合わせ可能にしてしまった。

(3) 本件替え刃と被告替え刃の商品形態は、類似の域を越えた全く同一形態のものといえ、被告が意図的に本件替え刃を模倣しない限り、こうした形態の一致はあり得ない。

(一〇) 原告らの損害(逸失利益)

(1) 原告らは、被告による不正競争防止法違反の行為により、営業上の利益を害され、損害を被ったところ、原告らの損害額は、被告が被告替え刃の製造、販売により得た利益の額と同額と推定される。

被告の発表に基づく被告替え刃の総販売数量をもとに被告の利益を算定すると六億八七四九万五六〇〇円となる。

(2) 本件替え刃の販売価格に対する原告らの取得比率は、原告ら間の契約により、原告岡田金属が八割、原告ゼット販売が二割となっているので、原告らの各損害額を右取得比率に応じて算定すると、原告岡田金属は五億四九九九万六四八〇円の、原告ゼット販売は、一億三七四九万九一二〇円の各損害を受けていることになる。

(二) よって、原告岡田金属は、被告に対し、不正競争防止法二条一項一号、三条、四条に基づき、被告替え刃の製造・販売の差止め及び前記損害のうち二億〇四八〇万円(ただし、控訴の範囲は一億八〇〇三万九七九五円)の支払を、原告ゼット販売は、被告に対し、不正競争防止法二条一項一号、四条に基づき、前記損害のうち五一二〇万円(ただし、控訴の範囲は四五〇〇万九九四九円)の支払を求める。

2  請求原因に対する被告の認否

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実は知らない。

(三) 同(三)及び(四)の事実及び法的主張は否認ないし争う。

(四) 同(五)の事実は認める。

(五) 同(六)及び(七)の事実は否認する。

(六) 同(八)ないし(二)の各事実及び法的主張は否認ないし争う。

3  被告の主張

(一) 本件替え刃の商品形態の商品表示性について

消費者は一般的には形態そのものよりも商品に付された商号や商標等によって出所を識別することがほとんどであり、商品の形態自体が周知された商品表示性を有することは極めて例外である。

鋸刃は機能と伝統が相まって大体において類似の形態となっており、昭和四四年ごろからはレザーソー工業株式会社による替え刃式鋸「レザーソー」が大量に販売されているから、本件替え刃の形態が周知性ある商品表示性を持ち得るはずはない。

本件替え刃の掛止め部ないし基部の形状は、技術的機能に由来する必然的な形態である。

需要者が商品選択に際して着目するのは、替え刃を回転させて着脱するという技術的機能であり、本件基部形状は正にこのためにのみある。また、鋸という商品の性格からしても、需要者が機能をデザインよりも重視することは容易に看取されることである。需要者がこのような観点から商品を選択するものである以上、本件替え刃の本件基部形状が商品表示性を有するものとは認められない。

そうでないとしても、掛止め部の形態はその機能に由来したありふれた形態であるうえ、原告らは本件替え刃を販売する際に掛止め部を展示しておらず、替え刃の包装にも掛止め部など描かれていないのであって、消費者が掛止め部の形態により商品の出所を識別することはない。

さらに、原告ら主張のような掛止め部の形態を有する製品は本件替え刃に限られるものではない。バクマ工業株式会社や、有限会社中屋鋸・機械製作所等も製造、販売している。

したがって、消費者において掛止め部の形態をみれば原告らの製品であると認識するなどということはあり得ない。

(二) 混同のおそれについて

仮に、本件替え刃の形態が周知性ある商品形態であるとしても、被告替え刃には「TAJIMA」「ゴールド鋸」と赤く目立つ文字をもって社名と登録商標を大書し、包装にも「TAJIMA」「ゴールド鋸」等の表示を極めて目立つように行っている。

したがって、消費者が混同などするはずがない。

(三) 故意について

被告は、創業明治四二年、設立昭和二〇年の会社であり、被告ブランドの浸透をはかりこそすれ、原告らの商品であると消費者に混同を生じさせようとするはずがない。

4  被告の主張に対する原告らの反論

(一) 本件替え刃の商品形態の商品表示該当性について

(1) 被告替え刃及び被告商品の製造、販売が開始された平成元年以前に、原告らは昭和五〇年発売の替え刃式鋸「パネルソー」以来既に一四年間にわたって特徴的な掛止め部を有する替え刃を大々的に宣伝、広告し、本件替え刃については合計約一一二四万個も製造、販売してきたので、包装上に掛止め部が表示されていなくても取引者や一般需要者は本件替え刃の掛止め部の形態を原告らの商品であることを表示するものとして認識していたことは明らかである。なぜなら、替え刃を使用する際には必ず包装を外し、背金に掛止め部を装着するために掛止め部の形態をよく見るからである。

(2) 原告岡田金属が「パネルソー」を製造、販売する前に、レザーソー工業株式会社が替え刃式鋸「レザーソー」を製造、販売していたことは何ら本件替え刃の周知性を否定する根拠にならない。「レザーソー」の替え刃は、鋸柄への取り付け部が掛止め式ではなく、下面に凹陥部を有する長い矩形であり、本件替え刃の掛止め部とは全く形態が異なるものであるからである。

また、原告らの周知表示性ある本件替え刃を模倣しているものが被告以外に存するとしても、そのことが本件替え刃の周知性を否定する根拠とはならない。有限会社中屋鋸・機械製作所は、平成元年頃本件替え刃と類似する商品の製造、販売を開始したが、原告らが平成三年ころその違法性を主張して中止を求めたところ、販売中止を確約した。バクマ工業株式会社は、平成二年ころから本件替え刃をそつくり模倣した替え刃の製造、販売を開始したので、原告らは平成五年四月六日差止め等を求める訴訟を提起した。

(3) 本件替え刃の掛止め部の形態は、回転着脱式という技術的思想ないし は機能を実現する上での必然的、不可選択的な結果ではない。それぞれの製造者によって独自の形態を選択し得る部分である。

また、需要者は、既にその手元にある鋸柄に装着可能な基部形態を備えた替え刃を選択購入しようとするのであり、技術的機能を離れ、その替え刃における基部の具体的形態を目印として選択するものである。

(二) 混同のおそれについて

被告替え刃上に記載されている「ゴールド鋸」は、「二六五」などの数字の半分の大きさであり、「TAJIMA」は僅か四分の一程度の大きさにすぎず、目立たない存在で自他識別力はない。包装のうえに小さく目立たない文字で表示されている「TAJIMAツール」の表示もまた同様である。

「ゴールド鋸」の文字は、「スーパー」のように単なる品質とか等級を表示する語として慣用されているものであり、商品の出所表示機能を有しない。

三  主たる争点

1  被告の被告替え刃製造販売行為は、不正競争防止法二条一項一号(平成五年法律第四七号附則二条により同法施行前に生じた事項にも適用。周知商品表示混同惹起行為)に該当するか否か。

(一) 原告らが主張する本件替え刃の形態的特徴(<1>フック状の掛止め部、<2>背凹部の存在、<3>刃渡り寸法の赤色印刷表示)の商品表示性

(二) 被告替え刃の製造販売による出所混同のおそれ

2  原告らの損害

第三  当裁判所の判断

一  争点1(被告替え刃製造販売は周知商品表示混同惹起行為に該当するか否か)について

請求原因(二)ないし(四)(原告ら製造販売に係る本件替え刃の形態の商品表示性及び周知性)について判断するに、当裁判所も、原告らが主張する本件替え刃の形態的特徴(<1>フック状の掛止め部、<2>背凹部の存在、<3>刃渡り寸法の赤色印刷表示)は、いずれも商品表示性を有するに至っておらず、その余の点(請求原因(五)ないし(10))について検討するまでもなく、不正競争防止法に基づく原告らの主張は理由がないものと判断する。その理由は以下のとおりである。

1  商品の形態は本来、当該商品の機能をよりよく発揮させ、あるいは、美観を高める等の見地から選択されるものであり、商品の出所を表示することを直接の目的とするものではないが、他者の商品との比較において形態自体に特異性が認められれば自他商品識別力を肯定することができるし、また、形態自体に特異性が乏しい場合でも、当該商品が大量に製造販売され、長期間経つとか、短時間であってもその形態を示した宣伝が強力に行われると、当初は機能や美観上の意味(第一次的意味)しか有しなかった形態が第二次的に商標的な意味(セカンダリーミーニング)を獲得し、自他商品識別力を具備するに至ることがある。そして、商品の形態自体に特異性が認められるか、長年にわたる大量使用又は強力な宣伝活動により自他商品識別力が肯定される場合には、その商品形態は特定の商品表示と認められ、不正競争防止法の保護対象となる。

2  証拠(甲八、九、一九、二七の一~一八九、二八の一~一八、二九の一~九三、三一の一・二、三二、三三の一~九、三五、三六、四五、五〇の二、六九の一~一七八、七〇の一~一三三、七二の一~四、七五、七八、八〇、八一の一・二、検甲二七ないし四四、四六、五〇の一~三、五七及び五八の各一~四、五九ないし六一の各一~五、乙一ないし三、五〇の一・二、原審証人岡田隆夫)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 替え刃式鋸の出現

替え刃式鋸は、昭和四〇年代ころより、鋸刃を激しく傷める集成材等の新建材の出現や目立てにかかる費用の高騰等の事情により、それまで一般的であった鋸柄と鋸刃を一体的に取り付けた鋸の不便さが顕在化したことから、製造、販売されるようになった。

昭和四四年ころ、レザーソー工業株式会社が製造、販売を開始した替え刃式鋸(商品名「レザーソー」)は、替え刃式鋸としては初めて大量生産、大量販売に成功した商品であるが、鋸刃を背金にはめて把持柄に差し込み、把持柄の下縁に取り付けたネジを締め込むことによって、鋸刃を鋸柄に取り付ける(固定する)という方式を採用していた。

(二) 旧考案

原告岡田金属は、昭和五〇年には、「パネルソー」との商品名で、回転着脱方式の替え刃式鋸の製造、販売を開始し、右替え刃式鋸について実用新案(旧考案)の登録出願をし、実用新案権(旧実用新案権・実公昭五三-一六七四号・甲四五)を取得した。

旧考案においては、鋸柄に取り付けた鋸刃保持部(背金)内に側面形状が円弧状に形成された係止部を設け、鋸刃基端部(鋸刃の根元)に、係止部に係合する凹所(掛止め部)を基端部の刃の側(下方)から切り欠き形成し、かつ背部側(鋸刃の背)に連なる基端部の縁を係止部の円弧にほぼ沿って滑らかに背部側に連なるように形成することにより、右凹所(鋸刃の基端部に形成した掛止め部)を鋸刃保持部(背金)内の係止部に掛け合わせ、係止部を中心として鋸刃を回動させることによって鋸刃を鋸柄に取り付ける技術思想が開示されている。

(三) 本件替え刃等の製造、販売

本件替え刃は、いずれも回転着脱方式の替え刃式鋸用の替え刃であり、原告岡田金属は、昭和五七年七月に本件替え刃のうち「ゼットソー265」及びこれを鋸柄に装着したもの、昭和五九年八月に「ゼットソー8寸目」及びこれを鋸柄に装着したもの、昭和六一年六月に「ゼットソー300」及びこれを鋸柄に装着したものの製造、販売を開始し、昭和六三年一二月からは、本件替え刃及びこれを鋸柄に装着したもの(装着したものを、以下「本件商品」という。)の販売を子会社である原告ゼット販売に委ねている。

(四) 本件替え刃の形態

本件替え刃は、左記の形態を有するものである。

(1) 全体形状は、基端部(以下「基部」という。)側の巾が先端側の巾よりやや狭くなっている細長い矩形状であり、その形状の詳細は、原判決別紙本件替え刃図面1ないし3に記載のとおりである。

(2) 鋸柄への装着部となる基部は、その下縁から上方(背部)に向けて、半径三〇mm(ただし、「ゼットソー300」では五〇mm)の円弧部、半径二mmの円弧部、上下長さが七mm(ただし、「ゼットソー300」では一〇mm)の垂直状の立ち上がり辺部、半径五mmの半円弧状の凹部(以下「小円弧部」という。)、半径二mmの円弧部、左右長さが三・八mmの水平状の辺部、半径二mmの円弧部、上下長さが三mmの立ち上がり辺部、半径一八mmの円弧部(以下「大円弧部」という。)を順次連続させた構成となっており、大円弧部と小円弧部とは同心円上にあり、右両円弧部によって、基部側上方位置にフックの掛止め部を形成している。

(3) 基部側の背部、掛止め部付近に深さ約二mmの凹部(背凹部)が存在する。

ちなみに、背凹部は、鋸柄との掛合せ機能とは無関係なものであるが、本件替え刃の製造工程においては、掛止め部周辺を成形するプレス加工と背部の曲線を成形するプレス加工とを別工程で行うが、僅かなプレス加工のずれによって背部に段差が生じることになるので、これを防ぐために、先に行う掛止め部周辺のプレス加工の際に、背部にへこみ(背凹部)を作っておくものである。

(4) 刃の側面(片面だけ)基部側寄りの位置には、商品名「ゼットソー265」(同図面2)については「ゼットソーHI」、「ハード・インパルス」、「265」、同「ゼットソー8寸目」(同図面1)については「ゼットソーHI」、「ハード・インパルス」、「8寸目」、同「ゼットソー300」(同図面3)については「ゼットソーHI」、「ハード・インパルス」、「300」と横書き三段の赤色印刷(ただし、「ハード・インパルス」は抜き文字で印刷)がなされている。

ちなみに、「ゼットソー」と「ハード・インパルス」は、いずれも原告岡田金属の登録商標であり、「ゼット」は原告ゼット販売の商号の一部であり、数字は、鋸刃の長さ(刃渡り)の寸法表示であり、「ゼットソーHI」と「ハード・インパルス」の印刷表示は発売当初から、寸法の印刷表示は昭和六一年からなされているものである。そして、「ゼットソー」は、本件商品及び本件替え刃を含む「ゼットソー」シリーズの商品及びその包装にのみ付されており、「HI」及び「ハード・インパルス」は原告らの他の商品(例えば「パネルソー」シリーズ)及びその包装にも付されている。

(五) 本件商品・本件替え刃の販売時の形態

本件商品の鋸刃(替え刃)部分及び本件替え刃は、いずれも錆を防止するために防錆紙で包装したうえで、外装袋に入れて販売されている。平成三、四年ころの原告商品の外装袋をみても、その表面には、替え刃を背金に装着した状態の形状を示す写真や絵が、「ゼットソーHI」、「265」、「300」等の商品名や「ハード・インパルス」という商標を記した帯状部分とともに印刷されている(本件替え刃単体での販売用の外装袋のうち、最近のものには、替え刃の全体形状が印刷されているものもあるが、平成元年ころのものには、背金に装着した状態の形状が印刷されている。)。替え刃の全体形状を外装袋に印刷するようになった時期を明らかにする証拠はない。平成元年ころからは、フィルムの一部を透明にすることにより、外部からも替え刃の一部が見えるような方法が採用されているが、替え刃そのものの基部形状までを視認することはできない。

(六) 本件商品・本件替え刃の販売実績、広告・宣伝活動等

(1) 本件商品のうち「ゼットソー265」は、我が国有数の金物産地である三木市において、昭和五七年度の新殖産品に指定された。

(2) 販売実績

昭和五七年七月から昭和六三年一一月末までの本件商品及び本件替え刃の各総販売数は、それぞれ約二五七万丁、約八六七万枚であり、平成六年一一月末までの本件商品及び本件替え刃の各総販売数は、それぞれ約六四七万丁、約二九一六万枚である。

(3) 広告・宣伝費

本件商品及び本件替え刃についての新聞広告費用及びラジオ、テレビ、カタログ等の宣伝広告費用は、請求原因(四)(4)<1>、<2>各記載のとおりである。

(七) 広告・宣伝の内容

(1) 新聞広告

昭和六一年ないし六三年に業界新聞や一般紙に掲載された広告には、本件商品及び本件替え刃の全体形状が示され、「プロのアイデア」、「ワンタッチ」・「替刃式のこぎり」、菱ゼットマーク、「ゼットソーHI」、「ハード・インパルス」、原告岡田金属の社名等が横書きで表示されていた。

ちなみに、菱ゼットマークは、◇(菱形)内に「Z」、◇の右肩に「ゼット」と表示した標章であり(原告岡田金属の登録商標であると推認される。)、後記カタログにも同じ標章が表示されているが、本件商品及び本件替え刃の外装袋や後記テレビコマーシャルには、右肩に「ゼット」の表示がないものも使用されている(以下、これらを総称して「菱ゼットマーク」という。)。そして、菱ゼットマークは、「ゼットソー」シリーズ以外の原告らの商品及びその包装にも使用されている。

(2) ラジオコマーシャル

ラジオでは、「ハードインパルスのゼットソーは集成材でもらーくらく」、「大工さん、まっすぐ切れますか?」、「切れまんがな、四角も二角もまーすぐ切れる、ゼットソー」、「岡田金属工業所です」との音声を流している。

(3) テレビコマーシャル

テレビでは、<1>昭和六一年度には、「人が時代を求める新しい道具を作る岡田金属工業所」、「企画・開発・製造と一貫体制のもとで伝統の技と最先端の技術が融合し、ゼットソーが生まれました。」、「菱ゼットマークは新たな伝統を築きます。」との音声を流して、原告岡田金属の「企画・開発・製造と一貫体制」のもとで本件替え刃が生まれたことを放映し、<2>昭和六三年度には、「ゼットソーは替え刃式の鋸、(刃先を取り付ける音)刃先はハードインパルス」、「(鋸で切る音)よく切れます。まっすぐ切れます。大工さんも使っています。」、「(刃を取り外す音)切れなくなったら新しい刃と取り替えて下さい。」、「ゼットソーはお近くの金物店・ホームセンターでお求め下さい。」との音声を流し、本件替え刃が一本の鋸柄をもって、かつ「ワンタッチ」で、種々の厚みの異なる鋸替え刃の装着を可能にするものであることと、本件替え刃を含む四種類の替え刃(掛止め部・背凹部の形状及び赤色寸法表示)を放映し、<3>平成三年度には、「(鋸で切る音)よく切れるなーおがくず積もれば山となる:か。」、「(鋸で切る音)あっ すごーい なにこれ!」、「ゼットソーブローハンドルが邪魔なおがくずを吹き飛ばす。」、「キャー!」、「風のイタズラ ゼットソーブローハンドル」、「お父さんも・大工さんもにっこり」との音声を流して、本件替え刃を含む七種類の替え刃の形状(掛止め部・背凹部の形状及び赤色寸法表示)等を放映し、<4>平成五年度には、「ゼットソーのゼットって何?」、「それはハードインパルス加工だから長持ち抜群 切れ味抜 群」、「さ・ら・に ここ!」、「用途に応じて取り替えられる替え刃式」、「なるほど」、「それでゼットなのね」、「ゼットソー鋸極めればゼットソー」との音声を流して、鋸柄に装着した本件替え刃(赤色寸法表示)等を放映している。

(4) カタログの内容

平成三、四年以降の原告らのカタログには、<1>「ハードインパルスとは」と題する箇所に、「鋼(はがね)を一瞬、衝撃的に加熱したあと、急速に冷却すると、非常に硬い組織が得られます。この組織は、硬いだけではなく、靱性や耐蝕性に優れ、のこぎりの刃先には最適の条件を備えているわけです。この組織を得るための熱処理が、衝撃焼き入れです。当社製ののこぎりの刃先には、この処理が施されています。ハードインパルス(HARD IMPULSE)は、当社がこの熱処理につけた呼び名です。(登録商標 第1986814号)」との説明があり、<2>「ゼットの替刃式ノコ取替方法」ないし「ゼットの替え刃 取り換え方法」と題する箇所に、把持柄先端に取り付けられた背金の断面と替え刃基部の写真が掲載され、背金の支持部(鋸係止部)に「係止金具」、替え刃基部の凹所(掛止め部)に「フック」との説明がつけられている。

(八) 他業者の参入

原告岡田金属の旧実用新案権は、昭和六三年一月一八日、存続期間満了により消滅したが、その後の平成元年ころ以降、他の業者も、回転着脱方式の替え刃式鋸に参入し、鉤状の掛止め部を有する替え刃を製造、販売するようになった。

3  右認定の本件商品及び本件替え刃の販売期間、販売実績、広告・宣伝活動等によれば、他業者が回転着脱方式の替え刃式鋸及びその替え刃を製造、販売し始めた平成元年ころには、本件商品及び本件替え刃は、「ゼットソー」なる商品名の回転着脱方式の替え刃式鋸及びその替え刃として、需要者の間で広く知られるようになっていたものと認められる。

4  そこで、本件替え刃の商品形態が、掛止め部ないし基部の形状等に独特の形態的特徴を有しており、商品表示性を有するかどうかについて検討する。この点につき、被告は、本件替え刃の掛止め部ないし基部の形状は、すべて回転着脱方式の替え刃式鋸の替え刃における技術的機能に由来する必然的な形態であると主張する。

回転着脱方式の替え刃式鋸においては、その技術的機能の制約から、(1) 背金の支持部(係止部)と替え刃の掛止め部がそれぞれ円滑に回転運動(回動)をすることができる形状を備えていること、(2) 鋸刃が鋸柄に取り付けられた状態(鋸柄への装着状態)で、背金の支持部に掛け止めされた鋸刃の掛止め部の位置が確実に保持される形状を備えていること、(3) 掛止め部を含む鋸刃基部の全体形状が、右(1)の回転運動を妨げないように形成されていることが必須の要件となる。

そして、回転着脱方式という要請から、右(1)の回転運動の軸となる支持部は側面形状が円形又は上縁側が円弧状とならざるを得ず、掛止め部の下縁側(支持部と直接接触する部分・以下同じ)は、支持部の円周面に沿って滑らかに回転することができるように、当該支持部の半径と略同一の半径を備えた円弧状であることが必要となり、しかも、右(2)の要件を充足するために、掛止め部の下縁側は、替え刃の長さ方向での抜け出しを防止するのに十分な鉤状であることが要求される。ちなみに、本件替え刃においては、小円弧部(半径五mm)がこれに該当する。これに対し、右(3)の要件を充足するためには、掛止め部の背部に連なる上縁側は、回転運動の際に背金の一部と接触して当該回転運動を妨げないような形状であれば、必ずしも円弧状に形成された下縁側と同心円上にある円弧状である必要はないし、鋸刃基部(鋸装着部)側のその余の部分(掛止め部付近)は、当該回転運動を妨げないような形状であれば、円弧状である必要すらない。したがって、右(1)ないし(3)の要件をすべて充足するためには、掛止め部の形状が、本件替え刃のように同心円上にある小円弧部(半径五mm)と大円弧部(半径一八mm)とで形成される鉤状(原告ら主張の「フック状」)である必要はない(以上につき、甲三六、検甲二四、五七の一~四、乙五〇の一・二)。

以上によれば、本件替え刃の基部、特に掛止め部の形状が、回転着脱方式の替え刃式鋸における技術的機能に由来する必然的な、他に選択の余地のない形態であるということはできない。

5  しかしながら、(一) 原告ら主張の形態的特徴<1>、すなわち、本件替え刃の基部側上方位置に存在する半径一八mmの大円弧部及びこれと同心円上にある半径五mmの小円弧部とで形成されるフック状の掛止め部は、その形状自体、格別特異なものではないこと(乙一ないし三、検甲五七の一ないし四)、(二) 原告らは、当審(平成九年四月二五日付準備書面)において、掛止め部を含む本件替え刃の基部側の全体形状がその形態的特徴であるとの主張もしているが、右全体形状も格別特異なものではないこと(前同)、(三) 替え刃の取引者・需要者は、特定の替え刃式鋸の把持柄(鋸柄-需要者であれば自己の有する鋸柄)への装着可能性という観点も商品選択の基準とし、鋸装着部の形態にも注意を払うものと考えられるが、その場合、鋸柄への装着可能性という技術的機能面に着目しているにすぎず、掛止め部を含む基部側の全体形状自体から商品を識別しているとは考えられないこと、(四) 本件商品及び本件替え刃は、外装袋に入れて販売されているところ、外装袋の表面には本件替え刃が背金に装着された状態での形状が印刷されているものが多く、本件替え刃の基部形状が必ずしも分からないような形で販売されていたのであり、基部を含む替え刃の全体形状を外装袋の表面から認識できるような方法で販売されるようになったのは、平成元年よりも後と推認されること、(五) 原告らによる広告・宣伝の内容を見ても、本件替え刃の基部を含む写真や映像も紹介されているものの、特にその基部形状を強調するようなものではないこと、(六) 原告ら主張の形態的特徴<2>、すなわち背凹部の存在は、本件替え刃の全体形状からみて目立たない部分であり、取引者・需要者が背凹部の存在によって、商品の出所を識別しているものとは認められないこと、(七) 替え刃の需要者の大部分は、大工職、建具職その他の建築関連業者などの専門職であることがうかがわれ(原審証人岡田隆夫)、その取引者・需要者は、替え刃の切れ味、耐久性等の品質、価格をも商品選択の重要な基準とし、鋸刃やその包装袋に付された標章、製造元・発売元の表示等によって、当該商品の品質や出所等を識別しているものと考えられること、(八) 原告ら主張の形態的特徴<3>、すなわち刃渡り寸法の赤色印刷表示は、そもそも本件替え刃の刃渡り寸法等を説明するものであり、「ゼットソーHI」、「ハード.インパルス」という原告岡田金属の登録商標や原告ゼット販売の商号の一部を含む赤色印刷表示と一体となって、商品の識別機能を果たしているにすぎず、それ自体に自他商品識別力があるとは認められないこと、以上の諸点を併せ考慮すると、原告らが主張する本件替え刃の形態的特徴<1>ないし<3>等は、いまだ、それらが本来有する機能や意味(第一次的意味)を超えて、第二次的に商標的な意味を獲得し自他商品識別力を具備するに至っているとは認められない。

したがって、その余の点について検討するまでもなく、不正競争防止法に基づく原告らの請求はいずれも理由がない。

二  結論

以上の次第で、原告らの本件控訴(ただし、減縮された後の原告らの請求に関するもの)は、いずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 川神裕)

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